昔、或る所に、お爺さんがいました。

すでに九十歳を過ぎていましたが、『百歳まで生きるんだ』と言う元気なお爺さんでした。
勿論、年相応に、身体のあちこちに不自由なところがありました。
でも、元気なお爺さんでした。毎日の晩酌は、『うまい、美味い』と言いながら飲みます。
老眼鏡だけでは足りず、分厚い拡大鏡で大好きな読書をします。
少しの雨だって庭に出て、植木の手入れをします。
室内での体操は勿論、足腰の運動の為に町内一周の散歩をします。

ある日、お爺さんは、いつもの散歩に出かけました。

散歩道は、町内の細い道路でした。
お爺さんの遠くなった耳に、子供が走って近づいて来る歓声が聞こえてきました。

お爺さんは、近づいて来る子供を確認しなければならないと思いました。

でも、お爺さんの身体は   お爺さんを裏切りました。
振り向こうと思っても、足が動いてくれないのです。

子供の歓声は、ドンドン近づいて来ました。

不自由な目に子供の姿が飛び込んだ時、お爺さんは、子供の安全の為に、身をかわして衝突を避けようとしました。
しかし、またもや  お爺さんの身体は   お爺さんを裏切りました。
子供を避けることが出来なかったお爺さんは、弾みで、道路の脇にある溝に落ちてしまいました。

子供は、行ってしまいました。お爺さんは、溝から這い上がろうとして、一生懸命にもがきました。
でも、お爺さんの力では無理でした。

溝の深さは70cmは有り、元気な若者でも難しいことでした。

こうして溝の中でもがくお爺さんが通行人に発見され、町内の人達に助け出されまでは10分以上が経っていました。

やっとのことで帰宅したお爺さんは、これまでの元気さは有りません。
棺桶のような溝の中で、自分の力ではどうにもならないことを体験し、生きる気力を失ったのです。

食事をする気力も失せた数日が過ぎて、回復の気配が見えた頃、お爺さんは逝ってしまいました。

元気な子供達へお年寄りのそばは、走らないでね。