昔の話だ。

飲み仲間であった元・上司が、完全に退職した。
55歳で1度目の退職をし 第2の勤め先でサラリーマン生活を送っていたのだが、60歳を迎える年度末ということで、いわゆる定年の完全リタイアであった。
おいらより6歳年上の彼は、これからは悠々自適の人生を送るのだと言っていた。

過去に職場を共にしたことのあるメンバーが集い、御苦労様というわけで一席を設けた。
以前より、『賑やか』なことが好きな奴で、見方を変えれば『淋しがり屋』な男であった。

家族のことやら、仕事のことやら。とにかく、話好きな男であった。
話題が無いと、同じ話を何度でも繰り返し話す。
数分後であれ、翌日であれ、翌週であれ、何度も繰り返す。
何かを話していないと気が済まない男だった。
趣味といったものは、まるで無い男だった。
競馬と温泉と酒、後は仕事しか無い男だった。
月曜日に1度家を出たら、金曜日まで帰宅することを知らない男だった。
けっして仕事でばかり外泊するわけではない。
酒を飲んで、少しでも遅くなると帰宅が億劫になるらしい。
午前様になっても必ず帰宅する習性のおいらは、よく叱ったものである。
世の中は、自分の為にあるような感覚の男であった。
第2の勤め先を辞めた当日、その会社の送別会は ものの1時間程度しか行ってもらえなかったようだ。
その日、おいらが行き着けの居酒屋で飲んでいるところに押しかけ、遇えて嬉しいとのことで飲んでいたっけ。
そんな短時間の送別会では、かなり嫌われていたのかな!?
完全リタイアということになり、初めて世の中は自分のためにあるわけではないことを知ったようだ。
そんな時に、昔のメンバーが急遽ご苦労さん会をしてくれたのがとても嬉しかった様子である。

酒でも温泉でも、一人で遊ぶことのできない男であった。
温泉に行きたくなれば、必ず仲間を誘い、顰蹙を買っている男であった。
そんな男だが、奥方と合わないわけではない。
正月などは、10日間の上も休暇を取り、奥方と近所を散歩したりして楽しんでいたらしい。

二人の子供も片付き、奥方と二人住まいの家庭である。
地域には仲間のいない淋しがり屋の男は、どんな生活を送っているのだろうか。
男の目から見れば、それなりに出世もし、穏やかなサラリーマン生活を無事に過ごした平凡な良い奴である。
どこにでもいる退職者である。