親父が80代の頃の真夏だった。
夜中に酔っぱらって寝ていたおいらを女将が起こす。 お袋が呼んでいると言う。
階段を昇降することが怖くて、我々夫婦の居住する2階に登ってくることなどは無いお袋がドアの外で呼んでいた。
異状事態の発生を察知した。 ドアを開けて話を聞くと、親父が固まったきり(?) 動けなくなったと言う。
急いで両親の寝室に駆けつけたところ、正に固まった親父がいた。

便所に行く為に布団から起き上がろうとして、そのままの姿勢で固まってしまい 身動きできなくなったとお袋が言う。
起き上がろうとした努力がそのままに表れた姿勢で、猫が伸びをしたように尻を突き出して俯せのままだ。
若いおいらが軽く押した程度の力では、固まった姿勢が崩れない。
意識は有り、目だけはキョロキョロしていた。
この姿勢のままではどうしようも無いと考え、強めの力で横になるように押したところ 他愛も無く横に転がった。
横にしてからの後は楽であった。 固まりは取れ、すぐに仰向けの姿勢で寝かせることができた。
無意識の意識で、固まったことが更に固まりを招いたのであろう。
念の為に血圧と体温を計ってみたが、正常値であったため医者を呼ぶことはしなかった。
普段から暑い時期には寝間着を着ず、越中ふんどし一丁の姿が汗まみれになっていた事が記憶に新しい。 因みに、心臓の持病や血圧の異常は以前より無かった。
翌日には、テレ笑いしながら いつもの庭仕事に励んでいる姿を見て、この件は落着ということになった。

今にしてみれば、あれは熱中症だったのだろう。 当時は、熱中症という言葉すら知らなかったが...

両親の寝室は、西側に向いている上階の無い1階で 夏の日差しをまともに受ける場所だった。
昭和42年に築造した家だが、和風だった為クーラーを設置できる構造になっていなかった。 当然クーラーは無い。
防犯上から雨戸を閉めて寝ている為、事件当時の室温は30℃を超えていた(たぶん35超)だろうことは間違いない。

事件以来、親父はトイレに起きる都度にコップ一杯の水を飲むことにしたと言う。