鎌倉在住の頃は、伊豆や箱根が遊び場だった。
特に、熱海温泉には頻繁に宿投した。
自宅から徒歩5分のJR大船駅で東海道線に乗れば ものの1時間程度で行けたからだ。
東海道線は東京に近い路線で、普通車両では混雑することが多かった為、もっぱらグリーン車を利用していた。
短距離とはいうものの、グリーン車でもそれなりに混む場合もあった。

ある日いつものように熱海の温泉を楽しんで、帰路のグリーン車でのことだ。
熱海 ⇒ 小田原 間のローカルな駅からお婆ちゃんが乗り込んできた。
電車に乗るのが初めてかしら(?) という空気のお婆ちゃんだった。
グリーン席に座るなり、袋から取り出したオムスビを食べだした。

やがて来た車掌の検札を受け、お婆ちゃんは普通切符しか所持していなかった。
若い親切そうな車掌に 「この切符では、この席に座れない事」 を教えられ、お婆ちゃんが言った。
「爺さんに この切符を渡されて、駅に来た電車に乗れと言われた」
グリーン席(グリーン車) と普通車両の相違を知らず、料金が異なることも知らなかったのだろう。

横浜まで行くというお婆ちゃんは、往復の切符を爺さんに渡されただけで金銭の持ち合わせは無いと言う。
車掌に促され、食べかけのオムスビを袋に仕舞い、普通車両に移動するお婆ちゃんの姿はとても小さく見えた。

グリーン席代金を支払ってあげようか(?!) とも よほど考えたが、むしろ失礼になると考え直し、思い止まった。
何の御用で初めての電車に乗るハメになったのかは知らない。 今どき...