儂の名は、ゴンスケという。
街の大きな病院から、山里にある老人ホームに越してきた。

街の病院では何やら御大層な名前の病名を付けられて随分と長いこと治療を受けたのだが、入院できる期限が迫った事と 儂にボケの症状が出たとのことで、追い出されてしまった。
この老人ホームは楢山の家と言うが、街からは遠く離れているものの、自然に溢れた静かな場所だ。
儂のような病気を持った者には、ソコソコの処置ができる医療スタッフもいる。週に数度は医師の検診もある。
そんなところで儂は、毎日を過ごしている。

儂の1日は、「ゴン爺ちゃん、朝だよ~」 という 花ちゃんの起床ラッパで始る。
起床ラッパが無くても、夜といい昼といい 1日中起きているような(?) 寝ているような(?) 儂には関係無いのだが、起こすのが花ちゃんの決めたルールのようだ。
起こされたところで、寝ている姿と大差無く 口を開けているだけで 感情や表情らしいものが伺えない儂を見て、人は完全にボケていると思っているようだ。

儂と同じフロアにいる者達を起こし終わった花ちゃんは、朝の小水をさせてくれる。
自力でトイレに行ける者は良いが、儂のような者は御丸に小水させてくれる。
黙って作業してくれれば良いのだが、「ゴン爺ちゃんは、小さいから御丸に入れにくい」 とか何とかブツブツ言いながら作業するんだよね~

儂がボケ爺だから理解していないと思ってのことなのだろうがドッコイ、口を開けて天井を見ているだけで自力では何~にもできない儂だけど、頭だけはボケる前と同じに働いているんだよ。
近代医学とやらで医者は、ボケた者は外部の事を理解できないかのように語るが、自分で一回ボケてみれば判るってことよ。
外見はだらしなく見えるかも知れないが、ボケたって変わりは無いんだよ。
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~跋文~
ボケた者の怖さは、当人が気づいていないこと。
でも、ボケるということは、神がかり、幼児還りなのかも。 外見的にはボケても、当人としては以前同様なのかも。